「マイナンバー」で日本は大不況になる 5
大震災を隠れ蓑に
Q8 いずれ銀行の預金口座や警察の捜査にもマイナンバーが適用されると聞きましたが、本当ですか?
A8
今年3月に政府は、マイナンバーの利用範囲を拡大する改正法案を閣議決定し、国会に提出しました。まだ始まってもいないのに、ずいぶん気が早い話です。
麻生財務相は、こう語っています。
「マイナンバーの預金口座への適用は、平成30年から始まり、新規に口座を開設する際に、申請用紙にマイナンバーを記入する欄を作る(当面の間、登録は任意)。平成33年を目途に義務化を検討する」
銀行口座に適用されれば、収入だけでなく資産まで把握しやすくなります。社会保障の資力調査や税務調査に役立つのですから、政府はぜひとも実施したいでしょう。
病歴などの医療情報も、今後の検討課題とされています。
制度の導入時こそ「災害対策」と国民の耳に心地よいのですが、政府が運用範囲の拡大を望んでいることは明白。
番号法は、第52条3項で、特定個人情報保護委員会が行う立ち入り検査の権限について「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と縛りをかけています。
しかし今後、マイナンバーが警察の捜査などに適用されない保証などあるのでしょうか。
Q9 このまま行けば、かつて導入が議論された「国民総背番号制度」と同じものになりそうです。あの時は国民の大反対で立ち消えになりましたが、なぜ今回は、スムーズに導入が進んだのですか?
A9
「国民総背番号制度」は、1970年代の佐藤栄作内閣の頃から検討され、国民や野党の強い反対にあって潰されてきました。今回の「番号法」(正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)がすんなり導入された背景には、東日本大震災直後に国内を覆ったムードがあります。大量の被災者が出て、医療や行政サービス、金融機関からの預金引き出しなどが滞ったために必要性を指摘されたことが、大きかったといえるでしょう。
動き始めたのは、震災から5ヵ月後のことでした。
- 平成23年6月 菅首相が、共通番号制度の導入に向けて「社会保障・税番号大綱」を決定。
- 平成24年2月 野田首相がマイナンバー関連三法案を閣議決定し、国会に提出。
- 平成24年11月 衆議院解散で、マイナンバー関連三法案は廃案。民主党が大敗し、安倍政権誕生。
- 平成25年3月 安倍首相はマイナンバー関連4法案を閣議決定し、国会に再提出。4月に衆議院で可決。5月に参議院で可決され、成立、交付。情報漏えいの危険性を理由に反対したのは、共産党のみ。その後、日本医師会や日弁連なども、反対を表明。
- 今年3月 政府がマイナンバー改正法案を国会に提出。メタボ検診や予防接種の履歴が、ヒモ付けの対象に。
- 今年10月5日 マイナンバーが記載された「通知カード」の発送開始。このカードを持って市町村に申請すると、顔写真やICチップの入った「個人番号カード」と無料で交換できる(任意)。この「個人番号カード」は、公的な身分証明書として使うことができる。法人には、13ケタの番号が交付される。
- 来年1月 マイナンバー運用開始。
こう見ると、民主党から自民党へスムーズに引き継がれ、非常に短時間で実行に至ったことがわかります。
マイナンバー不況が来る
Q10 マイナンバーで政府が得をするのはわかりますが、景気に対する影響はないのですか?
A10
従業員が30人規模の中小企業でも、社会保険料は2年で5000万円前後に達します。そんな金額を一度に徴収されたら、倒産しかねない企業が続出するでしょう。法人税なら赤字企業は払わずにすみますが、社会保険料からは逃れられません。
だからマイナンバー制度は、零細企業の切り捨てだという見方があるのです。「きちんと払わないのが悪い」と言われたらそれまでなのですが、結果として大企業優遇政策の一環になる、とはいえるでしょう。
こうして、これまで虫の息で何とか生きながらえてきた零細企業は倒産に追い込まれ、中小企業には導入コストやセキュリティの維持費が重くのしかかり、ネオン街は人手不足で寂れていく――。来年は“マイナンバー不況”さえ起こり得るのではないかと、私は、真剣に危惧しています。