マイナンバーショック 拡大する“闇の世界編”
これは北見昌朗の空想に基づく記事です。マイナンバーの導入を控えて、問題提議するために執筆しました。何ら具体的な根拠はありませんので、悪しからず。2015年4月。
マイナンバーで生きる術を失った男たちの末路は…
写真はイメージです
2016年12月24日の深夜。
白髪交じりの初老の男が息を殺していた。
窓の下で、しゃがんで、息を殺していた。というよりも、息が止まりそうだったと言った方がふさわしい。上から下まで黒ずくめの服装だったが、油汗で背中がビッショリだった。冬の真っ最中だというのにである。
背後から若い男の声がした。
「やれ!」
そう命じられた白髪交じりの男は、唾を飲み込んだ。そして、震えた。
だが、背後から若い男がまた命じた。
「やれ!」
その声はドスがきいていて、尋常ではない怖さがあった。言うことを聞かなければ自分がヤラれる、と思わせるに充分であった。ついに白髪交じりの男はハンマーに手をかけた。
「ガチィーン」
と大きな音がしたが、付近の住宅のない郊外のこと、構うことなしだった。
数人の男たちは一斉に侵入して、住民に襲いかかった。
「アーッ」
という叫び声が何度も上がった。だが、すぐ声はしなくなった。男たちは、お目当ての戦利品を奪うと、すぐ立ち去った。
マイナンバーで仕事を失った男
その翌日、テレビが報じた。
「また、強盗のニュースです。◎◎市の住宅で、昨夜12時頃、強盗が入り、住んでいた日本太郎さん(85歳)と花子さん(80歳)を殺害しました。強盗は、二人を包丁でメッタ刺しにしたようで、身体には無数の刺し傷があったようです。室内には荒らした跡があり、金庫などが失われたようです。二人は病院に運ばれましたが、心肺停止の状態です。警察は、最近市内で相次いでいた強盗の手口と似ているため、同一犯の疑いがあるとみて調べています…」
テレビを見た市民は、眉をひそめた。「これで何度目の強盗だろう、次はまた誰かが狙われるのではないか」とざわめいた。
息を殺していた初老の男の名前は、麻原正一(あさはらしょういち)だった。年齢は65歳。麻原正一は平成7年のオウム真理教の地下鉄サリン事件の実行犯の一人だった。事件後は整形を何度も繰り返し、元の顔もわからないほどであった。
名前は、加藤とか伊藤とか佐藤とか、何度も変えた。住む場所も頻繁に移った。仕事は工場の派遣労働者だった。
犯罪者として警察に追われる身ではあったが、事件後、麻原正一は自分なりに真面目に生きてきた。少なくとも誰にも迷惑をかけたことはなかった。
だが、その麻原正一の転落人生に追い打ちをかける問題が起きた。それはマイナンバーだった。2016年1月からマイナンバー法が施行された。おかげでマイナンバーを提出できない麻原正一は仕事を失ってしまった。
「マ無し日当10万どお?」暗躍する中国人マフィア
仕事を失った麻原正一は何でもした。アルミカン拾いもした。それこそマイナンバー無しで働ける仕事なら厭わなかった。だが、それでも食べていくことはできなかった。
食いあぐね、公園で野宿をしている麻原正一に声を掛けてくる者がいた。
「マ無し日当10万どお?」
この「マ無し」というのは、「マイナンバー無しで働ける」という意味である。麻原正一は、何をするのか、おおよその見当はついたが、もはや仕事を選べる立場ではなかった。
麻原正一は“強盗デビュー”を果たした後、レストランで食事をした。まともな食事にありつけたのは、本当に久しぶりだった。正直、おいしかった。
人をあやめる時は、心臓が止まりそうだった。だが、一度やってしまうと、感覚も麻痺するらしい。その後は抵抗感も薄れ、毎日のように仕事に励んだ。マイナンバーの導入により、タンス預金が増えたので、特に高齢者を狙えばてっとり早く金品を奪えた。
65歳という年齢で、本当は足腰も弱っていたが、そんなこといっている場合ではなかった。
こうして麻原正一は、すっかり強盗団の一味に加わった。強盗団の一味といっても、別に対等のグループではない。支配されて、末端の人出として使われるだけだった。強盗団のトップは中国人マフィアだった。「日本は稼げるらしい」という噂を聞き込んで、中国から大量の悪党が入ってきていた。
中国人マフィアが、人出の確保として眼を付けたのが、マイナンバー導入で困った人たちだった。中国人マフィアは、何が根拠かわからないが「10万人」という数字を口にしていた。「日本にはマイナンバーを出せないので生きる術を失った人が最低でも10万人はいる」というのである。
中国人マフィアは、マイナンバーの導入後、積極的なリクルーティング活動を実施し、急激に組織を拡大した。中国人マフィアの強盗の仕方は乱暴だった。まず殺してから金品を奪うのである。
マイナンバー導入で、こうして闇の世界が拡大した。