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マイナンバーショック 芸能界編

これは北見昌朗の空想に基づく記事です。マイナンバーの導入を控えて、問題提議するために執筆しました。何ら具体的な根拠はありませんので、悪しからず。2015年6月。

マイナンバーで人気が失墜したジャニーズタレント切出翔

「切出翔」に隠し子がいたとは…

競馬場
写真はイメージです

『エッ』

女は思わず手で口を押さえた。

呼吸が止まってしまい、心臓までその動きを止めそうだった。呼吸が戻るまでに、どれだけ時間を要しただろうか。

女は、ゴクンと唾を飲み込み、ようやく呼吸を取り戻した。

「ハー、ハー」

と、息が静まるまでに時間がかかった。

ようやく息が治まっても、その見つめる眼は、パソコンの画面から離れることはなかった。その画面にあった文字とは、こうである。

「婚外子。認知済み。女の子で、氏名は『一堂伊予』。母は宇留千絵(うるちえ)」

女は、端末を叩き、改めてこの男性の本名を確認した。

「一堂零(いちどうれい)」。昭和58年8月30日生まれ。本籍は東京都豊島区○○」

女が端末を叩いたところ、日本国民には、この名前の人物は一人しかいなかった。生年月日も一致していたので、この人に間違いなかった。

「一堂零(いちどうれい)」とは、今をときめく、ジャニーズ事務所のトップアイドル・奇面組の切出翔(きれいでしょう)の本名である。

女はさらに端末を叩き続けた。そこで、こんなこともわかった。

「元カノの宇留千絵(うるちえ)には養育費として毎月200万円を振り込んでいること」
「切出翔の住所は、東京都世田谷区四丁目○○のマンションであること」
「所有している車はBMWであること」(それ以前はキャデラック・エスカレードという車だった)

女が端末を叩いた時間は、約1時間だったが、女にとっては24時間ぐらいは経ったかのような印象だった。とにかく長い一日だった。

女は内閣府沖縄総合事務局職員だった!

パソコンを覗いていた女の名は、伊狩増代(いかりますよ)といった。職業は国家公務員である。勤務先は内閣府沖縄総合事務局である。名古屋大学法学部を卒業して入省したれっきとしたエリート官僚だった。年齢は40歳。独身。

伊狩増代は、いつも牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡を掛けていた。役所では、青色の制服を着ていた。愛想笑いをしたことなんて、おそらく人生で一度もないような役人を絵に描いたような人生を送っていた。

だが、伊狩増代にはもう一つ別の顔があった。ジャニーズ事務所のトップアイドル・奇面組のファンである。

伊狩増代にとって、奇面組はもはや命であった。年柄年中、考えていることといったら、切出翔のことだけだった。家には、至るところに切出翔の写真が飾られていて、それこそ、顔を洗うときも、風呂に入っている時も、見つめていた。

伊狩増代はもちろん、ファンクラブに入っていた。ファンクラブの入会には、入会金1,000円+年会費4,000円で合計5,000円が要ったが、伊狩増代はコンサートのチケットを入手するために、家族全員の名前を総動員してファンクラブに入会した。奇面組のコンサートなら、全国どこへでも出掛けたいと思っていた。だが、なかなかチケットを入手できないのが、不満の種であった。

そんな伊狩増代だから、切出翔のことを全部知りたいと思った。もちろん、職務上の立場を利用してマイナンバー情報を閲覧してはいけないことはわかっていた。わかっていたどころか、伊狩増代はマイナンバー導入講習会の講師を務める立場だった。講習会では「マイナンバー情報は厳格に守られます」と言い切って回るのが仕事だった。

でも、切出翔のこととなると、どうしても見たいという欲望を抑えることはできなかった。

「もう我慢できない」と…

伊狩増代

切出翔の秘密を知ってからというもの、伊狩増代は眠れぬ日々が続いた。心中穏やかならぬ理由とは、こんなところである。

「よりにもよって、なんでお笑いの宇留千絵なの?」
「噂によれば、前々から女優の河川唯(かわゆい)と関係があったとか…。河川唯なら、あんなに可愛いのだから、わからなくもないけど、どうして宇留千絵なの?」

こんな疑問を持たれても、切出翔にとっては迷惑至極だが、伊狩増代にとっては重大問題だった。毎晩、ベッドの中に入っても眠れず、悶々とした日々を送ってしまった。

そんなある日、遂に爆発してしまった。つぶやいてしまったのだ。それもツイッターで。

「まったく、ど~ゆ~ことなのよ?どうして宇留千絵なの?」
「ファンをバカにしないで、翔ったら」
「宇留千絵に似たら、生まれてきた娘の伊予ちゃんが可哀想じゃない」

それは、ほんの3行しかないつぶやきだったが、フォロワーがすぐ見つけてしまった。そこでファンの間で、一気に盛り上がってしまった。ネットで流れた噂とはこんな内容である。

「切出翔は、お笑いタレントの宇留千絵と出来ちゃったんだって。それですぐ妊娠しちゃって、宇留千絵は子供を産んだのだって」
「でも、どうして宇留千絵なの? 信じられない」
「なんでも切出翔は、宇留千絵に月に200万円もの養育費を払っているのだって」

こんな噂が飛び交ったのだから、切出翔の人気がガタ落ちになった。ちょうど写真集が発売されたばかりだったが、全然売れなくなってしまい、在庫の山に。

遂に刑事告発へ

ジャニーズ事務所が困り果てるのを見て、ようやく週刊誌が書き立て始めた。

「切出翔に隠し子が!」
という刺激的な見出しで、週刊大事件がデカデカと掲載した。

慌てたのはジャニーズ事務所である。記事の内容は、あまりに微にいり細にいりで、具体的であり過ぎて、どうしてここまでわかるのか? と切出翔を驚かせた。
ジャニーズ事務所は、記事の内容をつぶさに検証した結果、もはやこれは役所内部のマイナンバー情報が漏えいしたに違いないと推論した。そこで渋谷警察署に告発状を提出した。

ジャニーズ事務所は、告発状の提出とともにマスコミを集めて記者会見を行った。会見の席上では、切出翔がマイクを持ち、怒りをぶちまけた。

「プライバシーの重大な侵害です」

その怒りの表情は、民放で何度も全国に流された。

逮捕!

渋谷警察署は、告発状を受理し、捜査を始めた。捜査にあたり、警察署は、マイナンバー情報の閲覧履歴を調べた。すると、切出翔のマイナンバー情報は過去1年間の間に閲覧履歴が100回を超えていた。どんな人物が閲覧したのか、すぐわかった。

例えば、名古屋市役所住民課の若人蘭(わかとらん)、京都府消防安全課の天野邪子(あまのじゃこ)、下関市ボートレース企業局の三段腹幾重(さんだんばらいくえ)など、全国各地の役所の、それも女性ばかりだった。どう考えても閲覧する業務上の必要性のない立場だった。

渋谷警察署は、ツイッターとか、フェイスブックとか、SNSの書き込みを丹念に追って、1人の人物に辿り着いた。その人物とは、伊狩増代である。伊狩増代は証拠を突きつけられ、あっさりと容疑を認めた。

そして、内閣府の大臣の事代作吾(じだいさくご)は、謝罪会見に追い込まれた。

「このたび、内閣府の職員が業務上の必要性もないのに、職権を利用して芸能人のマイナンバー情報を勝手に閲覧し、情報を漏えいしてしまったことをお詫びいたします」

国民は、その謝罪会見を見て、唖然とした。

「マイナンバーなんて、大丈夫なの?」
「結局、マイナンバーなんて国民に何のメリットもない。政府が税金を取るために役立つだけ」
「役人だったら、あんな風に個人のプライバシーを勝手に閲覧できるなんて許せない」

犯人・伊狩増代のプライバシーも漏えい

犯人として逮捕された伊狩増代は、内閣府を懲戒免職された。彼女が留置所に入っていた時、『週刊大事件』は、次のようにすっぱ抜いた。

「犯人の伊狩増代は、名古屋大学法学部を卒業して入省したエリート官僚で、勤務先は内閣府沖縄総合事務局だった。年齢は40歳。独身。年収は800万円で、昨年の賞与(期末手当および勤勉手当)は250万円だった。預金残高は1000万円。昨年は、奇面組のコンサートに10回以上も行った。年次有給休暇を20日間もフルに使って、奇面組を追っかけていた」

その情報は、まさに微にいり細にいりで、なぜここまでわかるのか? と読者を思わせるに充分だった。『週刊大事件』は、ウラに手を回し、マイナンバー情報を入手したのだ。

そう、今度は伊狩増代自身が情報漏えいの被害者になったのだ。

選挙で大敗の一因に…

この問題は「切出翔事件」としてクローズアップされるまでになった。そして、次の選挙で与党が大敗する一因になった。国民の怒りが爆発した形だ。

奇面組

※不肖・北見昌朗は、実は昔々、「ハイスクール!奇面組」のファンでよく見ていました。勝手に名前を使ってスイマセン。

<参考になる記事>
知人女性の個人情報閲覧=容疑で大田区職員逮捕-警視庁

時事通信 6月2日(火)16時配信

勤務先の東京都大田区役所で知人女性の個人情報を閲覧し、不正に利用したとして、警視庁蒲田署などは2日までに、区個人情報保護条例違反容疑で、同区職員の石井庸雄容疑者(46)=大田区西六郷=を逮捕した。石井容疑者は「個人情報を見たことは間違いないが、ストーカー目的ではなく住所変更や安否確認のためだった」と話している。

逮捕容疑は2012年1月~15年2月、同区納税課に勤務中、収納業務で使用するパソコンから知人の20代会社員女性と家族の個人情報を2000回以上閲覧し、女性に「あさってはお父さんの誕生日だね」などと複数回メールを送信した疑い。

同署によると、今年1月、被害女性が蒲田署に相談。石井容疑者は5月にこの女性に対するストーカー規制法違反容疑で警視庁に逮捕され、その後示談が成立し釈放されていた。