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マイナンバーショック 市職員による不正アクセス編

これは北見昌朗の空想に基づく記事です。マイナンバーの導入を控えて、問題提議するために執筆しました。何ら具体的な根拠はありませんので、悪しからず。2015年5月。

見るべきか否か? 娘の結婚相手のマイナンバー情報を確かめたい
市職員の悩み

メガバンク
写真はイメージです

「エッ!」

端末を叩く男の指が止まった。男は画面を覗き込み、眼が点になっていた。

「ハア?」

という声が思わず漏れてしまった。だが、自分の声に気づいて、息を殺した。

男はメモをそそくさと取りながら、画面を急いで閉じた。そして音を立てずに退室した。入室してから、わずか10分も経っていない短時間であった。

男が退室した部屋には「特定個人情報一元管理室」というプラスチックの札がかかっていた。そこは○市西区役所の2階の奥にあった。その部屋は、特定個人情報をアクセスできる端末が置かれていて、そこに入るにはセキュリティーカードが必要だった。

昼休み休憩中は、付近に誰もいなくなるので、男はこっそり入室して、すぐさま退室したわけである。

業務以外の目的でアクセスが禁じられているマイナンバー

男の名前は、名小弥司役曙といった。○市西区役所総務課統計選挙係勤務の係長だった。58歳である。この男の職務は選挙係であるため、本来ならマイナンバーを扱うことはなかった。アクセスできる立場にはいなかったのである。

この男は、この数日前からずっと悩んできた。悩みの種というのは、娘の縁談だった。娘が交際中の男性を家に連れてきたのである。娘は35歳になっており、父親としては早く結婚もしてほしいというのがホンネだった。願ったり、かなったりという訳である。

だが男性を見て、なぜか、気になった。一見すると真面目そうな雰囲気だが、挙動不審というか、眼をキョロキョロさせて、視線を合わそうとしないのである。

そこで男性のことを調べたくなったのだ。マイナンバーを叩けば、どんな情報でも出てくる。それを見れば、どんな人なのか、バッチリ一目瞭然なのだ。

しかし、マイナンバーは業務以外の目的でアクセスすることが禁じられていた。しかも、自分自身はマイナンバーを扱う部署でもなかった。

「こっそり忍び込んで見るべきか、否か?」

男は悩み続けた。数日間、もんもんと悩んだ。悩んだ末に出た結論は「やはり見たい」であった。

セキュリティーカードは上司の机の中にあるのを知っていたので、こっそり拝借した。机にカギはかかっていなかった。

男は、昼休み休憩中に人気がないのを確かめてから、こっそり入室した。そこで見たものは、こうだった。

「年収は350万円」「預金残高ほぼ0」「学生時代に借りた奨学金は500万円あり、滞納中で、返済を求められている」

勤務先は中小企業を転々。それから親が市民税を滞納しているらしく、自宅が差し押さえられていた。

男は、娘から聞いた話と全然違っていたので愕然とした。

マイナンバーへの不正アクセスで得た情報を家族に言えない父

ここからが問題だった。この事実を娘にどう伝えるかである。男は家に帰るなり、娘に聞いてみた。

父「ところで、○○さんだけど、年収はいくらぐらいなの?」

娘「はあ、前も言ったじゃない。600万円ぐらいだと聞いたわよ」

父(いや、実は違うんだ。本当の年収は…)と思いながら、口からは「ちょっと具体的に確認した方がいいのじゃないかなあ?」と言った。

娘「お父さんって、心配性ね」

父「例えば、借金なんてないよね?」

娘「そんなこと聞いてないわ。あったら、相手の方から言うものでしょ」

横から妻が割り込んできた。
妻「もう、お父さんたら、何を心配しているのよ。子供を信じて任せればよいのよ」

男はそれ以上何も言えずに、口をつぐんでしまった。

男は、その晩も眠れなかった。
「まさかマイナンバーを調べて情報を不正にアクセスしたとは家族にも言えないし」
「オレもあと2年で定年で、退職金が待っているし」
と思いは揺れていた。