【マイ・オピニオン】 零細企業は“社会保険料倒産”になりかねない
新聞報道によれば「全国で約75万ヵ所の事業所が厚生年金の保険料負担を不正に逃れ、従業員約200万人が年金に加入できずにいる」となっている。この摘発が、マイナンバーのおかげで進むと想像される。そこで、その影響を試算してみた。
政府からみれば宝の山…
仮に平均年収が300万円だったとする。その約30%(労使折半)だから、社会保険料は年間60万円になる。その「年間保険料90万円×200万人=1兆8000億円」ということで、1兆8000億円も、取りはぐれていることになる。
財政事情が厳しい中で、この金額は政府の懐を大いに潤すに違いない。
未納企業は「とうちゃん、かあちゃん経営」の零細企業
どんな先が不正に社会保険料を納めていないのか? 「未納者200万人÷事業所75万カ所=約3人」ということで、従業員が3人程度の零細企業のイメージが浮かぶ。
社会保険は、法人の場合は従業員がいなくても強制加入になっている。個人経営の場合は「従業員5人以上」だと強制加入になる。
つまり、社会保険の未納事業所は「とうちゃん、かあちゃん経営」のレベルの零細企業が大半を占めると想像される。商店街のお店を想像してほしい。そんなところだ。
零細企業は法定福利費がドカンとコストアップへ
では、その「従業員3人」の零細企業は、もし社会保険の加入をしたら、いくらの経費が増えるのだろうか?
会社負担分の社会保険料は、年収の約15%である。「平均年収300万円×保険料率0.3×事業主負担分0.5×従業員3人=135万円」という前提だとすれば、毎年135万円の法定福利費が発生することになる。
しかし、社会保険に加入すると従業員の給与の手取りが減るので、事業主にはその保障分も求められそうだ。
会計検査院がバシンと摘発に乗り出すと過去2年遡及へ
マイナンバーの導入後、会計検査院はそのデータを元に未加入企業の摘発に乗り出すと思われる。会計検査院は、時効である2年分の支払いを命じる。問題は、従業員負担分の扱いだ。それは本来従業員が負担するべきものだが、今さら払えとは言いにくいもので、企業側が全額を負担するケースが多い。そうなると、過去2年分の保険料は、こんな金額になってしまう。
平均年収300万円×保険料率0.3×2年分×従業員3人=540万円
零細企業の断末魔の“うめき声”が聞こえる?
いかがだろうか? 零細企業の社長が真っ青になっている顔が想像されるだろう。こんな金額は、零細企業にとり死活問題だ。自主廃業ができるのは良い方だ。自己破産に追い込まれるところが、少なくないだろう。
全国に75万ヵ所もある零細企業の中で、どれだけが破綻に追い込まれるのか予想も付かないが、大きな影響が想像される。零細企業が破産すれば、連鎖倒産になりかねない。また、雇用不安も起きかねない。
「社会保険に加入するのは、もともと法で定められた義務であり、守っていない方がおかしい」というご意見は、、もちろん正論である。しかしながら、世に与える影響が大きすぎるのだ。
「アベノミクスは結局のところ、弱い者いじめだ」という指摘がある。この社会保険料の未納問題も、その1つになると思う。
平成28年1月 北見昌朗
厚生年金負担逃れ200万人分 75万事業所、加入手続き怠る
全国で約75万ヵ所の事業所が厚生年金の保険料負担を不正に逃れ、従業員約200万人が年金に加入できずにいるとみられることが28日、厚生労働省の推計で分かった。将来の年金額が少なくなり、老後の生活に影響が出る恐れがある。厚労省は日本年金機構を通じて事業所の特定を進め、加入を促す。
一定規模の事業所(法人や従業員5人以上の個人事業主)には、厚生年金への加入義務がある。対象は正社員やまとまった時間働くパート従業員で、保険料率(現在は月給の17・828%)の半分を事業所が支払う仕組み。だが保険料負担を避けるため、加入手続きを怠る事業所が後を絶たない。(2015年12月28日 19時23分 共同)