【マイ・オピニオン】 マイナンバーは安倍さんの経済対策だったのか?
社会保険労務士の筆者は、最近あるモノを発注した。それは「金庫」である。背丈ほどの金庫を2台注文した。顔認証で解錠できる最新型である。費用は300万円だ。ところが、発注する際に、メーカーから言われた。
「あのー、申し上げにくいことですが、納品まで4ヵ月かかります」
筆者は、思わず
「エッ」
と、声をあげてしまった。それでは間に合わないからである。
何に間に合わないかというと、マイナンバーだ。マイナンバーは平成27年10月から始まる。それに備えて保管する金庫が必要になった。
筆者は、哀願するような口調でメーカーに伝えた。
「10月に間に合わせてください」
と。
筆者のような零細社会保険労務士事務所にとって、この金庫の負担は大きかった。
「なんで、私がこんな負担をしなければいけないのか?」
と、見積書を見ながら、無性に腹が立ってきた。
「安倍さんに請求書を送りつけてやろうか!」
とまで思った。
特需に沸くマイナンバー関連業界
このように、いま日本全国で、マイナンバーの導入に備えて、多くの会社が設備投資に踏み切ったり、従来なかったコストを払うようになっている。それは、マイナンバー法が民間企業に対して「安全管理措置」(いわゆる情報セキュリティー)というものを求めており、それを怠り情報漏えいしたら懲役・罰金を科す、としているからである。
ちなみに、マイナンバー導入のために内閣府が作成したガイドラインを見てみると、こんな言葉があふれている。
◎ファイアーウォール ◎ウイルス対策ソフト ◎施錠可能なキャビネット ◎シュレッダー ◎追跡可能な移送手段(書留等) ◎間仕切り ◎セキュリティーカードシステム ◎セキュリティーワイヤー ◎暗号化等々
このため、会社側は設備投資などの対応に追われているのだ。関連業界は特需に沸いている。
筆者は、ガイドラインを見ながら感じた。これはひょっとしたら、安倍首相の経済対策なのではないかと。つまり「アベノミクス第●番目の矢」ということで、民間企業にオカネを使わせる政策だったのだ。
マイナンバーをクラウドで保管する日本全体のコスト
会社側がマイナンバーへの対応に苦慮している最中に、大事件が起きた。日本年金機構の情報漏えいである。このおかげで関心は一気に高まった。
この事件は、1つの教訓を会社に残したと思う。それは、
「どんなに情報セキュリティーに努めていても、突破される可能性がある。だから社内の情報システムの中で保管するのは止めたほうがよい」
ということだった。
そこで民間企業の間では2つの動きが強まった。1つ目は、紙の状態のままで金庫の中で保管する方法である。原始的だが、データに比べれば安全性が高い。
2つ目は、いわゆるクラウドである。コンピューター会社が用意するクラウドの中でマイナンバーを保管するという仕組みである。情報セキュリティーを徹底したクラウドの中で保管してもらったほうが安全だからという判断である。
そんな訳で、大手企業を中心にこぞってクラウドに流れる動きが加速している。そこで、筆者はふと思った。ところで、日本全体でこのマイナンバー関連のコストは、いくらに及ぶのだろうか?
ちなみに、クラウドの利用料は従業員1人あたり年間1000円前後が多い。日本には5000万人の労働者がいるが、仮に大手中心に1000万人がクラウド上でマイナンバーを保管したらどうなるか?
「1人1000円×1000万人=100億円」である。計算してみてビックリした。この費用が、今後毎年発生するのだ。
クラウドを提供する会社にとってはホクホクだが、日本経済全体ではどうなのだろうか? クラウドなどというものは、単なる情報システムだから、他の消費に結びつきにくい、つまり経済効果は低い。
経済対策というものは、波及効果を狙って行うべきだ。先ほど列挙したようなマイナンバーの関連のグッズは、あまり拡大再生産につながらないモノが多い。
オカネをドブに捨てるような政策は、日本全体のためにならない。