「日刊スポーツ」掲載 マイナンバー不況が到来!? 中小企業はピンチ
「日刊スポーツ」(2015年9月21日付)にマイナンバーに関する北見昌朗のオピニオンが掲載されました。
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マイナンバー不況が到来!? 中小企業はピンチ
国民1人1人に番号を割り当てる「マイナンバー」(社会保障・税番号制度)の運用が、来年1月から始まる。番号は10月に通知されるが、制度への理解は広がっていない。情報漏えいなどセキュリティー管理に不安を残すだけでなく、一般国民にも厳しい管理義務が生じる。問題の多い制度に、社会保険労務士の北見昌朗氏(56)は「マイナンバー不況が来る」と警鐘を鳴らす。
政府はこれまで、国民の個人情報を行政機関ごとに管理していた。今後はマイナンバー導入で、社会保障、税、災害対策の分野に限り、共通番号で管理する。行政コストが削減できるほか、個人の所得や社会保険の受給実態が把握しやすくなり、効率的な社会保障給付につながるという。
しかし、最大の狙いは、公平の名の下、社会保険料の不払いや脱税を防ぐことにある。当初は行政だけの利用範囲が、改正マイナンバー法で預金口座に結び付けることが可能になった。将来的に個人の預金口座や金の流れも、国に把握されることになりかねない。
身近なところでは、来年から会社員の副業やアルバイトがガラス張りになる。バイト先にもマイナンバーを届けるため、給料収入と“ヒモ付け”される。確定申告の必要もあり、申告がなければ税務署から追徴される可能性が高い。
北見氏は「知られたくない副業を持つ会社員、本業の後に水商売で働く女性は、発覚を嫌って辞めるかもしれない。特に水商売では、内緒で働く女性が多く人手不足に陥るかも。そうなると、夜の繁華街が廃れてしまう」と指摘する。
制度では、「セキュリティー特需」で一部潤うが、税金や社会保険料(厚生年金、健康保険、介護保険)を納めてこなかった企業は厳しくチェックされる。法人にもマイナンバーが付与され、社会保険料の納付実態が一目瞭然。時効2年前にさかのぼって徴収される。北見氏によると、従業員30人規模の会社なら社会保険料は2年で5000万円前後。さらに、社会保険料の正規負担で、今後は人件費が約15%上昇する計算。こんな会社が約70万社と推計される。
マイナンバーで集められる「特定個人情報」には、罰則付きの厳しい管理が要求される。自治体だけでなく、民間にも「安全管理措置」義務が課せられる。精神的負担にもなり、これまでの安全管理では追い付かない。北見氏は、従業員100人で支店が数カ所の会社負担は「初期費用1000万円、毎年の運用で400万円」と試算する。
中小企業では、コストをひねり出すため、社員給与の削減に踏み切る可能性もある。日本の会社員の7割弱を占める中小企業社員の給与削減は、消費に影響を及ぼす。<1>社会保険料の支払い厳格化<2>制度導入コスト<3>セキュリティー管理の負担は、企業の経営を圧迫しかねない。北見氏は「来年はマイナンバー不況が起こるのではないか」と危惧している。(取材=斎藤暢也)
◆北見昌朗(きたみ・まさお)1959年生まれ、名古屋市出身。中部経済新聞の記者から給料・人事コンサルタントとして独立。北見式賃金研究所所長。
◆マイナンバー漏えいに関する罰則 最も重いのは、「正当な理由なく特定個人情報ファイルを提供した」場合で、4年以下の懲役か200万円以下の罰金、またはこれらの併科となる。自治体や企業でマイナンバー管理に関わる全ての者が対象。個人情報保護法など他の関係法律の罰則よりも厳しい。